July 19, 2022

エンゲージメントの新時代における関係構築

エンゲージメントの新時代における関係構築

エンゲージメントの新時代における関係構築

この記事は、グローバルな資産運用業界における証拠と観察に基づいて作成されています。この考察は、今まで対面によるエンゲージメントを通じて企業間関係をサポートしてきた他の業界にも、同様に当てはまる可能性があります。


ターゲット顧客をクライアントに変えるには、一般的に信頼の育成、特に期待される価値をもつ製品とサービスを提供するサプライヤーへの信頼にかかっています。競争の激しい資産運用業界において、信頼の構築は元来、資産運用会社との個人的なつながりを提供する対面(「F2F」)のやりとりによって支えられてきました。対面のやりとりは、投資哲学と投資能力の説明、サービスの調整、および説明責任の提供において重要です。 しかしパンデミックで対面によるやりとりの規範が変わり、信頼構築のプロセスも影響を受けました。

顧客の好みのプロファイルの出現

14か国の3,000人を超える投資専門家(機関投資家、資産コンサルタント、リテールファンドバイヤー、ファイナンシャルアドバイザー)に対して、今後の方向性に関する質問を実施した結果, [1]将来的なエンゲージメントに関する好みのスタイルに基づいて顧客プロファイルを3つ(「個人」、「バーチャル」、「ハイブリッド」)に区分できることが明らかになりました。また顧客層ごとに、各プロファイルの占める相対的な割合を算出しました(図1を参照)。

図1:資産管理者別にみるエンゲージメントプロファイルの割合

どのプロファイルも重要ですが、対象者や国によって占める割合が異なります。 資産運用の専門家達における「個人」プロファイル(対面および個別のビデオ通話を好む層)の割合は、国や文化によって最も大きく差があり、「資産コンサルタント」に最も多く(資産運用会社と綿密なデューデリジェンスを実施するコンサルタントのバリュープロポジションと一致)見られます。「資産コンサルタント」以外の専門家達の間では、「個人」プロファイルの占める割合はほぼ一定です。

「オンラインミーティングが主なコミュニケーションになりましたが、特に初期のコミュニケーション手段としては、対面のミーティングが好みです。」

(日本の金融機関の意思決定者)

「バーチャル」プロファイル(セルフサービス型でオンラインを利用し、リモートでのエンゲージメントを好む層)は、ファイナンシャルアドバイザーに最も顕著に見られます。グローバルのアドバイザーの3分の1は、高度に仮想化されたセルフサービス型のアプローチを好んでいます。これは効率的ですが、資産運用会社が(クライアントではない)特定のアドバイザーとの信頼関係を強化、転換させるには、課題があると言えます。

「すべてのリソースを利用できる関連Webサイトに、ワンクリックで簡単かつ迅速にアクセスできると良いと思います。」

(カナダのファイナンシャルアドバイザー)

「ハイブリッド」プロファイルは、全ての対象層と地域において最も大きな割合を占めています。ハイブリッドの意思決定者は、関連する価値とその価値に伴うエンゲージメントの好みのスタイルに応じて、ケースバイケースで個人あるいはバーチャルプロファイルを選択しています(図2を参照)。

「経験上、ビデオ通話には肯定的です。今後は使用が増えると思います。出張を減らすため、対面の会議はどんどん少なくなるでしょうが、毎年1回の対面のマネージャー会議は必要だと思います。」

(米国金融機関の意思決定者)

図2:「ハイブリッド」の金融機関の意思決定者:コミュニケーションのタイプ別にみるエンゲージメントのスタイル

エンゲージメントの調整を支える要因

資産運用会社からのフィードバックによると、現在のエンゲージメントの形はパンデミック後の対面のやりとりに対する需要の高まりからさまざまに変化し、微妙な違いを生んでいます。このような変化は、先に述べた「バーチャル」あるいは「ハイブリッド」のプロファイルに沿った顧客と見込み客のリモートエンゲージメントの好みのスタイルで調整されています。

変化の明らかな要因(ホームオフィスでの作業[2], バーチャル化による効率[3])に加えて、特にヨーロッパでのESGの採用は、クライアントのエンゲージメント方法に永続的な影響を及ぼしています。図3に示すように、資産管理の意思決定者と資産運用会社の一部は、環境原則のため、業界および資産運用会社のイベントへの出張を減らす取り組みに励んでいます。環境原則の影響を受ける意思決定者の割合は、ESG採用の勢いに合わせて世界的に増えていくと予想されます。

図3:環境原則が、業界や資産運用会社のイベントへの出張削減に大きな影響を与えると考える意思決定者の割合

観察し、学び、適応する

資産運用会社は、パンデミック下でも企業間クライアントにリモートでサービスを提供することで、非常にうまく対処しました。しかし各国が新型コロナウィルス感染症による制約から抜け出すにつれて、新しい顧客との関係を勝ち取るにあたり新たな課題に直面しています。

最初に信頼を築き、新規顧客を獲得するためには、個人的なエンゲージメントが重要ですが、ターゲットクライアントの大部分が非効率的な対面のやりとりに後戻りしている点が(資産運用会社にとって)ジレンマになっています。したがって資産運用会社は、好みのスタイルを反転させ、見込み客や新規顧客との価値の高い対面のやり取りを追求すると同時に、信頼関係を構築した後はバーチャルなセルフサービスとリモートでのパーソナルエンゲージメントでの便益を提供しなければなりません

総合的にみて、資産運用会社がエンゲージメントモデルを推進するにあたり、以下の戦略が役立つと考えられます。

  • 価値の高い対面コミュニケーション :ネットワーキング、パートナー関係、情報共有、重要な会話などのメリットを備えた、価値の高い対面エンゲージメントを試みます。会議の場所/周辺環境、曜日、トピック、および参加方法(対面のみ、ハイブリッド/録画)を調査します。
  • 行動の追跡:個々の見込み客/顧客のエンゲージメントの好みのスタイルと行動(イベントやウェビナーへの参加、Webサイトの使用など)に関する情報を収集することで、個人的なやりとりとバーチャルなやりとりそれぞれに対応することができます。
  • デジタルエクスペリエンス:拡張性のあるセルフサービス型およびバーチャルのエンゲージメントを促進するために、オンライン情報とインターフェースを継続的に改善して、各顧客のデジタルエクスペリエンスをより適切にカスタマイズする方法を予測します。
  • リモートパーソナルサービス:リモートパーソナルサービスを運用して、多数のハイブリッド顧客に対応します。これらの顧客は、リモートチャネルを通じて提供される、反応が早く、説明責任があり、親しみ深いサービスを高く評価します。

究極の強みとは、各ターゲット顧客の好みを完全に理解し、それに応じてやりとりをカスタマイズできることです。これは実現にはほど遠いですが、資産運用会社は注意深くアプローチし、継続的に調査、学習、適応することで、エンゲージメントの新時代において新しい顧客との信頼を築き、既存の顧客との関係を強化して、今後より良い立場に立つでしょう。


[1]各プロファイルの特徴の要約は、この記事の付録に含まれています

[2]多くの専門家は、会社とホームオフィスで働く時間のバランスを模索しています。テクノロジーの発達により、今まで対面で行われていた会議に自宅から効果的に参加することが可能になりました。会社への通勤に時間やコストがかかる場合、または会社の作業環境が魅力的でも生産的でもない場合、ホームオフィスの方が好まれます

[3]リモート作業の受け入れ、最新テクノロジーの統合、情報とツールへのオンラインアクセスなどにより、効率と生産性が向上し、収益性が強化されました。

付録:エンゲージメントのスタイルに基づく顧客プロファイル

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